電波通信

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コンパクト性と閉射影:Kuratowski-Mrówka's Thoerem

PDFはないですが、その内に追加する予定です。PDFを追加しました。

位相空間Xのコンパクト性は任意の位相空間Yについて射影X×Y→Yが閉写像であることと同値です。
この定理をKuratowski-Mrówkaの定理と言います。


この定理はまず
Kuratowski, Evaluation de la classe borélienne ou projective d'un ensemble de points à l'aide des symboles logiques, Fund.Math, vol 17, 1931,pp249-272
においてXが距離空間のとき、くだんの射影が閉であることが述べられました。(p253のRemarques)
この時点では逆が成り立つこととは知られていなかったようです。


その後
S. Mrówka, Compactness and product spaces, Colloq.Math. Vol 7, No.1, 1949, pp19-22
に於いて一般の距離空間についてこの定理が成り立つことが示されました。


証明が知りたい方は以下の記事へどうぞ
concious4410.hatenablog.com

さて
R.Engelking,General Tooplogy, 1977, PWN
のChapter3の3.1.16にKuratowskiの定理としてこの定理が紹介されています。そしてこのChapterのHistorical and bibliographic noteではこの定理は
「クラトフスキー[1931]によってコンパクト空間とほかの空間の積の射影が閉であることが証明されその後ブルバキ[1940]とMrówka[1959]によってコンパクト空間の特徴づけになっていることが見いだされた」
という旨の紹介がありますが、ブルバキ[1940]によって見出されていたという記述はおそらく間違いです。
[追記]間違えではありませんでした。正しくは
「クラトフスキー[1931]によって距離空間のクラスにおいてコンパクト空間とほかの空間の積の射影が閉であることが証明されその後ブルバキ[1940]によって一般の場合が観察され、とMrówka[1959]によってコンパクト空間の特徴づけになっていることが見いだされた」
でした。英語が読めなかった。


図書館にたまたま1940年版のブルバキのジェネラルトポロジー(おそらく初版)があったのでそれを見てみたところ、この定理が証明されてるような記述は見られませんでした
そもそも1940年版のブルバキでは、今でいうところのコンパクト性は定義されてなく、コンパクトハウスドルフ空間しか扱われていませんでした。[追記]演習問題においてこの定理の半分、つまりコンパクト空間と任意の空間との積の射影が閉になってるという命題が演習問題として述べられていました。


追記:セカンドエディションの、1951年版を見てみても、やはりクラトフスキーの定理に関する記述は僕が見た限り認められなかった。[追記]セカンドエディションでもやはり定理の半分が演習として述べられていました。
[追記]このエディションからproper mapに関する命題が追加された。後の版とは違い、コンパクト集合の逆像がコンパクトという現代の僕らが用いる意味で定義されている。


3rd edは1961年らしいのですが、この版においてproper mapに関する章が充実され、そのproper mapに関する章でKuratowski-Mrówka's Thoeremが完全な形で述べられました。(Kuratowski-Mrówka's Thoeremの半分も演習問題から格上げになり、命題になった。)
この版で何が起こったのか分からないが、proper mapの定義が、現代でいうところの完全写像(同じことだが普遍閉写像)で定義されいます。


また1961年版では準コンパクトの概念が導入されました。(ブルバキの言う準コンパクトとは現代の僕らが使う意味での、ハウスドルフ性を仮定しないコンパクト性)(これより以前の版ではコンパクト性しか定義されなかった)


もちろん後の版にはこの定理は適性写像(今でいうところの完全写像)の章で扱われていますが、1940年版にはそもそも適性写像の章がなかったりします。
おそらくEngelkingは他の版のブルバキと間違えたのかもしれません。このことについて何かご存知の方はコメントをください。


話は変わりますが、D.Mumfordのいわゆる赤本、つまり、The red book of Varieties and Schemesにおいて完備代数多様体を定義する際には、このクラトフスキーの定理のアナロジーとして射影が閉という条件で完備性を定義するのですが、完備代数多様体を定義した後に、
「この定義は位相空間の圏においてコンパクト性を特徴づけている、ただし、完全正則(Completely regular)や第二可算性などの良い付帯条件を課したうえでの話である。」
という旨の記述がありますが、もちろんこれは無用な注意です。

追記:この記述は初版と第二版、そして邦訳版に共通して見られるものです。

追記:この赤本の原稿は1960年代に書かれたもののようです。


Fund.Math.つまりFumdamenta MathematicaeやColooq.Math.つまりColooquiun Mathematicaeなどの古い論文はオープンアクセスになっているので、うえで紹介した二つの論文はネットで落とせると思う。


[追記:16-06-29]
定実平面の中で、1/xのグラフのは平面の閉集合ですが、射影の像はR\{0}で、閉集合では有りません。これは直積位相を習って射影が開写像であることを習った後によく出される演習問題の解答ですが、Kuratowski-Mrówkaの定理の証明も、この現象と同じアイデアで証明されます。


そもそもなぜ1/xのグラフについてこういうことが起きるのかというと、{1/n}という点列はRの中で0に収束してますが、1/xのグラフに乗せると(1/n,n)という平面の点列になります。
y軸の方を見てみると、{n}という点列ですが、これはRの中で収束しないどころか集積点すら持ちません。
このように収束する点列{1/n}と集積点を持たない点列{n}が1/xのグラフを介して結びつけられて居るので、このような現象が起きるのです。
Rがノンコンパクトであり、"広がり"がある空間だから{n}のような点列が存在し得るのです。

以上の考察を元にするとKuratowski-Mrówkaの定理を証明するには、Xをノンコンパクトでないとして、うまいことXのノンコンパクトから部分集合を持ってきてそしてうまいことYを持ってきて、上のような現象を引き起こして仕舞えばX×Yの閉集合で、X×Y→Yの像がYの閉集合ではないものが作れるので、対偶を考えるなりして定理は証明されるのです。
もしくはXに対してYをうまいこと選んでX×Yに""1/xのグラフのような閉集合""をこさえてしまえば定理は証明されます。


今手元に5種類の証明がありますが、すべて上の思想に基づいた証明になっています。

PDFはこちら