多様体の基礎のSardの定理の記述について、誤りがあるので解説します。
これは2ndシーズンの始まりではありません。
Sradの定理
を
の開集合とする。そして、
ならば、
級写像
の臨界値全体はの零集合である。
つまり、の臨界点を
として
の
次元測度がゼロということである。
これがSardの定理ですが、多様体の基礎ではミルナーのTopology from differentiable viewpointから定理を引用して、rに関する制限を
としているが、これは誤りです。*1
以下、多様体の基礎に述べられているこの命題が誤りであることを説明します。
この命題が述べられている多様体の基礎の同じページに、Sardの定理のWhitneyによる反例が述べられています。つまり、rがSardの定理の仮定にある不等式
を充さない時の反例、特にの場合の反例です。つまり、この反例を
とし、の臨界点を
と置くと
の一次元測度が正ということです。
このから命題の反例を構成しましょう。ここで
は
の開集合で、fは
級です。
まずFを次のように定義しましょう。
このときが
級なので
も
級です。
の臨界点を求めましょう。
のヤコビ行列は
という形をしているので、の臨界点を
とすると、
は
を部分集合として含みます。
さてで、
は正の一次元測度を持つので、
は正の二次元測度を持ちます。(より詳しく、無限大である。)
よっては正の二次元測度を持ちます。
ところで、今Fについてなので
であるから
であるが、の臨界値全体は零集合ではない。
よってこのは多様体の基礎に記述されているSardの定理の反例になっている。
この反例はそれこそSardの原論分
A.Sard, The measure of the critical values of differentiable maps, Bull. Amer. Math. Soc. 48 (1942), pp883-890
の一番最後のページに書かれている反例です。ちなみにこの論文はオープンアクセスです。
[追記2016/12/18]
スターンバーグの微分幾何学という本が邦訳されていますが、実はこの本に一般的な場合のSardの定理の証明がちゃんと載っています。
また、Whitneyによる反例は
H.Whitney, A function not constant on a connected set of critical points, Duke.Math.J. 1(1935) p514-517
を参照のこと。
Whitney は実関数の臨界点、つまり微分が消えるような点の上で、その実関数は定数であるか?という素朴な問いに対して、Whitney自身の一つの偉大な結果であるWhitneyの拡張定理を用いることで、反例を構成した。
彼は平面の中のカントール集合と、カントール集合を通る弧のうえで、直線上のカントールの悪魔の階段と同様の関数を作り、それを拡張定理によって平面全体に拡張することにより、臨界点内の連結弧のうえで定数でない関数を構成した。
Whitneyの反例は正式にSardの定理が論文で発表される以前に発表されたことに注意されたい。
Sardが論文を出す以前からSardの定理型の定理は微分可能性の仮定の甘さを除いては(SardやMorseらによって)知られていたようだが、最終的にという最良の仮定のもとで定理は証明された。Sardの証明には先行するMorseが用いられているが、最良の仮定に辿り着くのにWhitneyの反例が大きな影響を及ぼしているのは火を見るより明らかだろう。
Sardの定理の微分可能性に関する反例を作るだけならWhitneyの構成よりも簡単に弧なんて作らずにカントール集合上の関数を拡張するだけで実は良い
[追記]
この記事は2ndシーズンが始まったことを意味するものではありません。
前回の記事でしばらく更新しないと言いましたがこんな風な短いTaleだったらちびちび更新していくつもりです。