ストーン・ワイエルストラスの定理の話
PDFは無いです。
ストーン・ワイエルストラスの話をします。長いと思ったら、間は飛ばして1番最後に紹介する論文だけ知ってもらえればよいです。
ワイエルストラスの定理
ワイエルストラスの近似定理とも言わるが、実数の[0,1]区間上の連続関数は、多項式で一様に近似できるという定理である。
ワイエルストラスは熱核を用いて証明したようだが、今ではベルンスタイン多項式による具体的な近似多項式の表示も知られている。
また、m階(mは有限)微分可能な関数をm階導関数まで含めて有界閉区間で一様に多項式で近似する定理も知られているようだ。(実は熱核による証明に手心を加えるだけで証明できる。)
これに関して詳しくは
H.Whitney, Analytic extensions of functions defined in closed sets, Trans. Amer. Math. Soc. 1934, Vol.36 No.1 pp63–89
を参照のこと。この論文では解析関数で近似してるが、多項式で置き換えても構わないことはよくわかると思う。
ストーン・ワイエルストラスの定理
M.H.Stoneは1948年に、ワイエルストラスの定理の拡張に当たる定理を証明しました。今ではストーン・ワイエルストラスの定理と呼ばれている定理である。定理を述べる前に準備をしよう。
コンパクトハウスドルフ空間Xの上の実連続関数全体の成す空間C(X)に一様ノルムによって位相を定義する。
さて、C(X)は環を成しており、さらに実係数線形空間にもなっている。このような環を実代数と言う。
さらにC(X)には、max演算と、min演算があることに注意しましょう。つまりC(X)は束にもなっている。*1
主張は以下の通り。
ストーン・ワイエルストラスの定理
C(X)の部分集合Aが
- 1という定数関数はAに属する。
- AはXの任意の2点を分離する。
- Aは和と積とスカラー倍について閉じている。つまりAはC(X)の部分代数である。
を充たすときに、AはC(X)で稠密である。
このように、ストーン・ワイエルストラスの定理は、実数の閉区間だけではなく、一般のコンパクトハウスドルフ空間において、C(X)の部分集合がその中で稠密になることの基準を与えた定理である。
この定理のよく知られている証明の中で次のことを証明する。
主張1.Aの閉包はC(X)の部分束
つまりAの元f,gについて、max(f,g)や、min(f,g)をAの元で一様に近似できることを言っている。
この主張1について、それなりに詳しく説明をしていく。
実数a,bについて
max(a,b)=(a+b+|a-b|)/2,
min(a,b)=(a+b-|a-b|)/2
と書けることを知っていれば、上の主張1は、
主張2. Aの元fについて、|f|は、Aの元で一様に近似できる
に還元されることはよく分かる。
そしてさらに、f^2/||f^2||は、Aの元であり、(AはC(X)の部分代数なので)0以上、1以下の値しか取り柄無いので、結局最終的に、
主張3. √tは、[0,1]区間上で多項式で一様に近似できる
を証明できれば主張2は証明されるのて主張1も証明される。(√a^2=|a|であるから。また、AはC(X)の部分代数なので、多項式にfを代入した関数はAに属するのだ)
これを証明するには、ワイエルストラスの定理を用いてもいいし、この関数に一様収束するよく知られた具体的な関数列があるので、それを用いてもよい。
こういうのを色々使うと、ストーン・ワイエルストラスの定理は証明できる。詳しい証明は、なんか適当な本に書いてあると思う。たとえば宮島先生の関数解析など。
"Elementary Proof"
1964年にH.Kuhnは、ワイエルストラスの近似定理に、elementary proofを与えた。
大学の初年時などで習うように[0,1]区間上で、{x^n}という関数列は、[0,1)上で0、{1}では1という値に収束する不連続関数に各点収束するが、Kuhnは、これと同様の現象を用いて、[-1,1]上の、[-1,0)では0、[0,1]では1の値をとる不連続関数Tを多項式の各点収束の極限として表した。
さらに[0,1]区間上の連続関数を、階段関数(正確にはTを平行移動させたり、スカラー倍した関数の和で書ける階段関数)で一様近似して最終的に多項式で一様に近似することに成功している。
注意するが、Tは多項式の各点極限でしかないが、上手いことやるとこのような証明が可能なのである。
後のためにちょっと言っておくが、Tを多項式の各点極限で表すときにベルヌーイの不等式として知られるつぎの不等式を用いている。
(1+h)^n≧1+nh
ただしここで、h≧-1である。
ワイエルストラスの近似定理の証明で不連続関数を用いるというのは、なかなか思いつかない発想であると思うし、すごい。
詳しくは
H.Kuhn, Ein elementarer beweis des Weirstrassschen Approximationssatzes, Arch. der. Math.1964, Vol.15, p316-317
を参照のこと。ドイツ語であるが、短い論文なので、気合で読めると思う。オープンアクセスかどうかは、忘れた。
さて、ストーン・ワイエルストラスの定理は半ばワイエルストラスの定理を応用して証明されるが、ワイエルストラスの定理の"elementary proof"が得られたということは、ストーン・ワイエルストラスの定理も"elementary proof"で証明出来るかもしれないという事である。
1981年にBrosowskiとDeutschは上の論文のアナロジーとして、ベルヌーイの不等式を用いた"elementary proof"を発表している。
彼らの証明の中では、先のストーン・ワイエルストラスの定理のところで述べた
- √tを多項式で一様近似すること
- C(X)の部分代数の閉包が再び部分代数になること
- C(X)の部分代数の閉包が部分束になること
これらのことを全く用いずにストーン・ワイエルストラスの定理を証明している。これが"elementary proof"である所以である。
詳しくは
B.Brosowski and F.Deutsch, An elementary proof of the Stone-Weierstrass theorem, 1981, Proc.Amer.Math.Soc. Vol.81 No.1 pp89-92
を参照のこと。
この論文はオープンアクセスです。
今後はこういう感じの記事が増えていくと思います。
*1:max,minは連続的な演算であることに留意せよ